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ミラクルな一瞬をつかまえる

フィルム vs デジタル

写真撮影の中でもポートレイト撮影は永遠のテーマです。

人が人を写真に収めるという行為の中に、

とてつもない奥深い世界があるのです。

人の表情には、言葉で理解するよりも何十倍もの情報が含まれています。

ですからポートレイト撮影は、ただピントと構図があっているだけでは

良い写真とは言えない特別な意味があるのです。

ほんの一瞬の表情。

このミラクルな瞬間を捕まえるためにやり方は様々です。

先日、私の尊敬する写真家の上田義彦さんのドキュメンタリーを見返したのですが、

上田さんは大判カメラを被写体に向けて、とにかく待つ。じっと被写体を見つめ続け、

言葉もほとんど発せず、その時を待つ。

「撮る側と、撮られる側の真剣勝負」

そしてその時がきたら、吹き矢で獲物をしとめるかのごとくシャッターを切る。

一枚の写真の中に時間や想いや命を吹き込む、そんな撮り方です。

現像で浮き上がって来た印画紙には、被写体が語りかけてくるような表情が写し出されています。

いっぽうで私の好きな女性カメラマン Victoria Will は

キャノンのデジタル一眼で、ピントすら気にせずシャッターを切りまくる。

彼女の意識はカメラの中にはなく、被写体に語りかけカメラの存在すら忘れさせるような撮り方。

ほとんどがボツの写真の中に、連写で捉えた偶然性も計算にいれた ミラクルな表情が切り取られたものあるのです。

どちらの取り方が正解とは言えないですが、

カメラが捉えるほんの一瞬の中にミラクルが存在していることは事実です。

ただシャッターを切るのではなく、本当にほんのわずかな一瞬を探しながらシャッターを

切る大切さは同じだと思います。

ポートレイトは撮る側の気持ちと、撮られる側の気持ちが正直に写し出されます。

だから写真は奥深いのです。

ポートレイトの名手 ハービー山口さんは、いつも被写体の幸せをお祈りしながらシャッターを

切るそうです。彼の写真にはその思いが写り込んでいます。

写真を撮るのに必要なのは、最低限の機材とたくさんの想いなんだと思います。